カルテル法制史における高度経済成長期の展開:カルテル許容の変遷を中心に
タイトル
廣瀬翔太郎「カルテル法制史における高度経済成長期の展開:カルテル許容の変遷を中心に」法学政治学論究144号(2025)229-271頁。
目次
一 はじめに
二 競争制限的な行政指導から適用除外カルテルへの移行
(一) 独禁法制定と昭和28年改正
(二) 競争制限的な行政指導の拡大
(三) 物価対策として関心が高まる独禁法
(四) 適用除外カルテルの積極的利用
(五) 独禁法上の不況カルテルの解釈・運用
(六) 小括
三 適用除外規定を欠く事業法とカルテル
(一) 石油業法の制定時の課題
(二) 石油業法による運用上の課題
(三) 石油危機における石油二法の制定
四 カルテル禁止規定の解釈・運用
五 むすびにかえて
要旨
本稿は、わが国のカルテル法制史のうち、主に高度経済成長中期から後期を検討時期したものである。少なくとも現在よりもカルテルの許容が一般的に求められていた当時、わが国においてカルテルがどのような方法で許容されていて、それがどのように変化していったのか、ということを明らかにしたものである。独占禁止法が原則的にカルテルを禁止している法制度において、例外的な許容を認めるべきなのか。認めるとして、どのような方法で行うべきなのか。すなわち、現在のように不当な取引制限(2条6項、3条)の解釈の精緻化による対応を目指すのか、それとも適用除外立法を必要とするのか、ということを考える足掛かりの一つとすることを目指したものである。本論文では、カルテルが必要とされていたことをある程度前提にして、それを当時どのように許容していたのか、ということを詳らかにすることを目指している。
第二章で、独占禁止法制定と同法昭和28年改正を概観し、その上で、不況期に存在することが多かったカルテルについて分析している。すなわち、昭和30年代前半の競争制限的な行政指導の実施や産業別の個別法立法などが行われるなかで、昭和30年代半ばから物価が高騰したことで独占禁止法が注目され、徐々に競争制限的な行政指導が減り、適用除外カルテルへ移行していく変遷を論じている。第三章では、明文の適用除外規定を欠いていた事業法とカルテルについて論じる。すなわち、昭和37年に制定された石油業法及び、石油危機時に制定され、石油二法と言われた石油需給適正化法、国民生活安定緊急措置法について検討している。第四章では、カルテル禁止規定、すなわち、不当な取引制限と、事業者団体規制(8条)に関する解釈・運用について、どのような変化があったのか、分析する。具体的には、事件数、適用法条、業界分野の変遷に注目し、昭和30年代前半の事件数が少なかった時代から、昭和40年代中盤に入ると、公取委は、事業者団体規制ではなく、不当な取引制限として事件処理をすることが増え、大企業にも勧告を積極的に行うようになった過程を分析している。
以上のように、カルテルが大幅に許容される時期から、徐々にそれが縮減して、禁止される時期へ、どのように舵を切っていったのかを本論文では論じている。舵を切った先にある一つの到達点は、独占禁止法制定以来、初の強化改正となる昭和52年改正ということになる。
Title
Developments in Japanese Cartel Law during the Rapid Economic Growth Era: Focusing on Cartel Exemption Laws