カルテル法制史における法の許容とその評価:独占禁止法と適用除外カルテル法を巡る昭和30年代前半の議論を中心に
タイトル
廣瀬翔太郎「カルテル法制史における法の許容とその評価:独占禁止法と適用除外カルテル法を巡る昭和30年代前半の議論を中心に」法学政治学論究139号(2023)295-335頁。
目次
一 はじめに
二 独禁法昭和28年改正とその後の動き
(一) 改正内容とその経緯
1 適用除外カルテル誕生の背景
2 独禁法の適用除外カルテルの規定
(二) 適用除外カルテルの解釈・運用
1 公取委の認可方針と対応
2 通産省による勧告操短の再開と公取委の態度の変化
(三) 個別法による適用除外カルテルの制定と拡大
1 個別法の全体像
2 個別法の規定
三 独禁法改正にかかる議論
(一) 通産省内の独禁法再改正の議論
(二) 産業調整法案の頓挫
(三) 独占禁止法審議会の検討と答申
(四) 改正法案の作成
1 通産省・公取委の改正意見と内閣審議室の改正要綱
2 認可等の最終判断権者の所在
(五)改正法案の内容とその評価
四 考察
(一) 当時のカルテル法制にかかる制度上の問題
(二) 政策目的達成の手段としての適用除外カルテル
五 おわりに
要旨
本稿は、カルテル法制の模索について、昭和30年代前半の立法を中心とした動きに焦点を当てる。当時、カルテルについては、独占禁止法の不当な取引制限として原則禁止するという考え方と、産業保護・育成のために許容するという考え方が存在していた。すなわち、独禁法を所管する公正取引委員会と、産業や貿易を促進させたい通商産業省との対立があった。本稿では、カルテルがどのような条件が揃うことで許容されるのか、換言すれば、法制度としてカルテルを認めることは、政策手段の一つとして有効に機能するのかということの検討を試みる。
それにあたり、第二章では、まず、独占禁止法昭和二八年改正で創設された適用除外カルテルが制定された背景と、その規定、運用状況を確認する。次に、個別法制定の展開について、その全体像を確認した後、それらの規定ぶりを独占禁止法の適用除外カルテル規定(不況・合理化カルテル)との比較を通して確認する。
第三章では、先行研究が少ない独占禁止法の昭和33年改正法案が国会提出に至る議論に着目する。この改正議論は、独占禁止法の規定自体を緩和改正しようとする最後の本格的な動きとなる。一連の議論は、基本的にはカルテルを許容したいと考える通商産業省と産業界を中心に行われた。しかし、消費者団体、農林業団体などの反対運動が強く、審議未了廃案となった。昭和30年頃の通産省内で改正の検討が開始されたとされるため、そこから昭和33年秋に改正法案が国会に提出されるまでのプロセスを見ることで、当時目指されたカルテル法制を分析する。
第四章では、これらを踏まえた考察を行う。第一節では、独占禁止法のカルテル法制に起こり得た変化が、従来の原則禁止主義から、事実上の弊害規制主義の転換と言える内容だったことを指摘する。第二節では、独占禁止法に加え、業種別の個別法が当時様々に制定されていたことについて、法制度の観点から不均衡や矛盾を抱えていたということを指摘する。第三節では、政策目的を達成するための手段としてのカルテルが、有効に機能していたのかということについて、長期的に見れば政策目的実現に寄与していなかったことを論じる。
最後に、本論での検討を振り返った上で、こうした過去の問題は、実は現在においても同様の問題を発生させ得ることを示す。また、本稿の論じるカルテルの問題は、昭和30年代後半以降も継続されることを指摘する。
Title
Scope of Law and Its Evaluation in Japanese Cartel Law History: Antimonopoly Law and the Cartel Exemption Laws in the 1950s